ゴッホの生と死 5
暮れにエッテンに戻ったゴッホは、もはやイギリスへは戻らず、ドールトレフトの書店の店員として勤めることになります。
彼はその理由のひとつとして、経済的な問題をあげていますが、説教の準備などに際して自覚した、宗教その他におけるおのれの教養の不足を、書店の店員となることで埋めようとしたのかもしれません。
しかし、こんな理由で勤められた書店の方こそいい面の皮でした。
夜の熱狂的な読書のために、昼間はいつも眠そうな顔をして、ろくろくお客の対応もせず、聖書をフランス語、ドイツ語、英語に翻訳し、4段目にオランダ版の文章を書き添えたり、何やらスケッチをしたりしている店員が、長続きするはずがありません。
このようなゴッホの様子を見て、ついに周囲は折れ、彼は、牧師になるための正式の勉強を始めることとなったのです。
しかし、大学へ入るには、国家試験をパスしておかねばなりません。
彼は、アムステルダムの海軍造船所副所長をやっていた伯父ヤン・ファン・ゴッホの家に下宿し、試験勉強を始めました。
テオあての手紙からうかがえるゴッホの勉強ぶりは涙ぐましいほどすが、この性急な若者のなかで燃えあがっている渇望と、国家試験を通って大学へ入り、大学を卒業して牧師になるという世間一般の道とは、絶望的なへだたりがあったようです。